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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)12449号 判決

甲号事件原告

竹浪淳一

外四名

右五名訴訟代理人

鍛治良造

外三名

甲号事件被告兼乙号事件原告

大黒企業株式会社

右代表者兼甲号事件被告

太田順こと

崔順特

右両名訴訟代理人

江口保夫

外二名

甲号事件被告両名訴訟代理人

宮田量司

外一名

乙号事件原告訴訟代理人

梶山公勇

外一名

乙号事件被告

日東金属工業株式会社

右代表者兼乙号事件被告

水野桃一

右両名訴訟代理人

石川勲蔵

主文

(甲号事件)

一  被告大黒企業株式会社同崔順特は各自原告竹浪淳一に対し金六〇七万八、五四〇円、同岩谷きさに対し金三七万六、七二七円、同岩谷和久に対し金三六万三、八二八円、同福士カセに対し金二三万七、〇〇〇円、同福士淳子に対し金一〇三万三、五〇〇円および右各金員に対する昭和四五年一二月二七日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は主文第一項に限りかりに執行することができる。

(乙号事件)

一  被告日東金属工業株式会社は原告に対し金七万円およびこれに対する昭和四六年一二月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の日東金属工業株式会社に対するその余の請求ならびに被告水野桃一に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告と被告日東金属工業株式会社の間に生じた部分はこれを二分し、その一を原告の、その余を同被告の負担とし、原告と被告水野桃一の間に生じた部分は原告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限りかりに執行することができる。

事実

第一  当事者の申立

(甲号事件)

(一)  原告ら

「被告らは各自原告竹浪淳一に対し金八〇一万九、三四四円、同岩谷きさに対し金一〇九万五、二四三円、同岩谷和久に対し金四六万五、八二八円、同福士カセに対し金四一万八、四二三円、同福士淳子に対し金一五二万〇、七五八円および右各金員に対する昭和四五年一二月二七日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告ら

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」」との判決。

(乙号事件)

(一)  原告

「被告らは原告に対し金一四万円および右金員に対する被告日東金属工業株式会社は昭和四六年一二月二八日から被告水野桃一は同月二七日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

(二)  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  請求の原因

(甲号事件)

一  事故の発生

(一)日時 昭和四四年八月二七日午前八時五〇分頃

(二)場所 横浜市戸塚区上郷町一四三一番地先道路上

(三)加害車 被告会社の被用者安昌守の運転する大型貨物自動車(横浜一ね四七八七)

(四)被害者 普通乗用車(相模五は三八六二)運転中の原告竹浪とこれに同乗していたその余の原告ら

(五)態様 加害車がセンターラインを超えて対向車の被害車と衝突し、原告らが負傷した。

(六)傷害の内容

(1)原告竹浪 両側前頭骨々折、左側頭骨・頭頂骨・後頭骨陥没骨折、脳挫傷、頭蓋内出血と自賠法施行令別表所定七級該当の後遺症

(2)原告岩谷さき 全身打撲、外傷性両顎関節症

(3)原告岩谷和久 顔面および頭部打撲、右脛骨々折

(4)原告福士カセ 全身打撲

(5)原告福士淳子 左大腿骨顆部骨折顔面および項部腹部打撲

二  責任原因

(一) 被告会社の責任

(1) 被告会社は、安を雇傭し、同人が加害車を運転して被告会社の業務である建築用資材の運搬途中に、本件事故を惹起した。

(2) かりに被告会社と安との間に雇傭関係がなかつたとしても、同人は被告会社の専属請負人であつて、被告会社は、同人が加害車を月賦で購入するにあたり、自ら契約上の買主となる一方、同人との間に代車専属契約書をとり交して右車輛を専ら被告会社の乗務用に提供させており、また、右車輛の強制保険および任意保険の保険契約者となり、保険料の支払いもしていた。

(3) 従つて、被告会社は、加害車の運行供用者として自賠法三条による責任と安の使用者として民法七一五条一項による責任を免れない。

(二) 被告崔順特の責任

被告崔順特は、被告会社の唯一の経営者として、事業全般を指揮監督し、加害者の運転者安に対する被告会社の指揮監督も、具体的には、被告崔によつてなされていたのであるから、同被告は、前記のとおり安が被告会社の業務執行中その過失によつて惹起した本件事故について、民法七一五条二項により、その損害を賠償する責任を免かれない。

三  原告らの損害

原告らは、本件事故によつて、次のような損害を被つた。

(一) 原告竹浪について

八〇一万九、三四四円

(1)積極的損害 一一二万七、五一〇円

(イ)治療関係費一〇五万七、五一〇円

(A) 頭部傷害のため、昭和四四年八月二七日から昭和四五年一月三一日まで入院し、その間ベット上を転げ回り、失尿失禁などの症状を呈していたので、付添婦のほかにも延三二八名の人夫による付添を要しその費用九八万三、四九三円、

(B) 右のような症状のため特別室を使用せざるを得ずその費用一万三、三〇〇円、

(C) 入院雑費六万〇、七一七円

(ロ)車輛損     七万円

被害車は、借用中のものであつたが、本件事故により大破して使用不能となつたので、原告竹浪が貸主に右車輛損害金として支払つた金額

(2)休業損害 一三二万九、二〇四円

原告竹浪が事故当時竹浪建設から支払いを受けていた日給三、〇八四円に本件事故による休業期間昭和四四年八月二七日から昭和四五年一〇月三一日までの四三一日を乗じた金額

(3)逸失利益 五〇〇万八、二三〇円

前記後遺症による労働能力喪失率は五六パーセント、喪失期間は一〇年であるので、右収入を基礎として算出した労働能力喪失期間中の純収入につき、ホフマン方式により年五分の割合の中間利息を控除して求めた現価

(4)慰藉料   一〇〇万円

(5)弁護士費用  三〇万円

(6)損害の填補  七四万五、六〇〇円

本件事故による損害の賠償として自賠責保険金三万一、五〇〇円、労災保険金七一万四、一〇〇円を受領

(二) 原告岩谷きさについて

一〇九万五、二四三円

(1)積極的損害(治療関係費)

八万六、一四八円

前記傷害のため昭和四四年八月二七日から同年一〇月三一日まで入院し、同年一一月一日から昭和四五年一二月一九日まで通院し、その間に支出した

(イ)付添費 六万五、八二八円と

(ロ)通院交通費二万〇、三二〇円の合計額

(2)休業損害 六三万一、四一五円

原告岩谷きさが事故当時竹浪建設から支払いを受けていた日給一、四六五円に、本件事故による休業期間昭和四四年八月二七日から昭和四五年一〇月三一日までの四三〇日を乗じた金額

(3)慰藉料    六〇万円

(4)弁護士費用  一五万円

(5)損害の填補

本件事故による損害の賠償として自賠責保険金九万九、八三〇円、労災保険金二七万二、四九〇円を受領

(三) 原告岩谷和久について

四六万五、八二八円

(1)積極的損害(付添費)

六万五、八二八円

前記傷害のため昭和四四年八月二七日から同年一〇月三一日まで入院してその間に支出した付添費

(2)慰藉料    三〇万円

(3)弁護士費用  一〇万円

(四) 原告福士カセについて

四一万八、四二三円

(1)積極的損害(付添費)

六万八、四二三円

前記傷害のため昭和四四年八月二七日から同年一〇月一四日までの一九日間入院してその間に支出した付添費

(2)慰藉料    二五万円

(3)弁護士費用  一〇万円

(五) 原告福士淳子について

一五二万〇、七五八円

(1)積極的損害(治療関係費)

四七万〇、七五八円

前記傷害のため昭和四四年八月二七日から同年一二月五日まで入院し、同年一二月六日から同月二〇日まで通院し、その間に支出した

(イ)治療費 八万〇、八二五円、

(ロ)付添費 三六万四、六三三円、

(ハ)通院交通費 二万五、三〇〇円の合計額

(2)慰藉料    九〇万円

(3)弁護士費用  一五万円

(乙号事件)

一  事故の発生

甲号事件の請求原因で主張された日時、場所において、被告日東金属工業株式会社の被用者吉田正彬の運転する普通貨物自動車(横浜四ほ七二七九号)が先行の訴外車を追越したとき、対向車を認めて右訴外車の直前に割り込んだためこれと衝突して両車が急停止し、吉田車に後続していた甲号事件の加害車が停止車両との衝突を避けるべく急ブレーキをかけ、スリップしてセンターラインを超え対向車線に進入した結果、甲号事件の事故が発生したのであつて、同事故はまさに、吉田車の不適当な追越をした過失と、安の車間距離不保持の過失との競合によるものである。

二  責任原因

被告日東金属は、右吉田車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであり、また、被告水野桃一は被告日東金属に代つて運転者の吉田を指導監督するものであつて、右事故は吉田が被告日東金属の業務執行中その過失にかよつて惹起したものであるから、被告らは、原告と共同不法行為者として、原告が甲号事件において同事件の被害者らに対して負担する損害賠償責任を分担する義務があるものというべきである。そして、原告は、昭和四六年一一月二日甲号事件の原告竹浪に対し右損害金として二〇万円を支払つたところ、安車と吉田車の前記各過失の程度を考慮すると、原告が一〇分の三、被告らが一〇分の七であると認めるのが相当であるので、原告は、被告らに対し前記弁済金のうち被告らの負担部分に相当する金一四万円の支払いを求める。

第三  請求原因に対する答弁

(甲号事件被告ら)

原告ら主張の請求原因事実中、安が被告会社の被用者であり、また、専属請負人であることは否認、原告らの傷害の程度および損害の内容は不知、その余の主張事実はすべて認める。

(乙号事件被告ら)

原告主張の請求原因事実中、吉田の過失および衝突時刻の点ならびに被告水野が被告日東金属に代わつて吉田を指揮監督していたことは否認、原告が甲号事件の被害者らに対してその主張のような損害の賠償義務を負担することは不知、その余の主張事実はすべて認める。なお、吉田車と先行訴外車との事故は、昭和四四年八月二七日午前九時三〇分に発生しているのに対し、甲号事件の加害車と吉田車との事故は、それより約二〇分後の九時五〇分に発生しているのであるから、両事故の間には共同不法行為の関係はない。

第四  乙号事件における抗弁とそれに対する答弁

(被告らの抗弁)

仮りに吉田に過失があつたとしても、同人と安との間に、昭和四四年八月三〇日「吉田は、安に対して金一〇万円を貸与すること、原告大黒企業は被告日東金属および水野桃一に対して右事故につき一切の請求をしないこと」を内容とする示談契約が成立した、従つて、原告の本訴請求は、失当である。

(原告の答弁)

一 被告らのような示談契約の締結されたことは、知らない。

二 仮りに締結の事実があつたとしても、その示談契約は、もとより安と吉田との間に締結されたものであるから、第三者たる原告に対しては何らの法律効果をも及ぼすものではない。

第五 証拠関係〈略〉

理由

一本件事故の発生とその態様

昭和四四年八月二七日、横浜市戸塚区上郷町一四三一番地先道路上において、吉田正彬の運転する普通貨物自動車が先行の訴外車を追越したとき、対向車を認めて右訴外車の直前に割り込んだため、これと衝突して同車が急停止したところへ、吉田車に後続していた安昌守運転の大型貨物自動車が、停止車両との衝突を避けるべく急ブレーキをかけ、スリップしてセンターラインを越え、対向車線に進入した結果、対向車線を走行してきた甲号事件の原告竹浪の普通乗用車と衝突し、その事故により被害車を運転していた右原告およびその車に同乗していた右事件のその余の原告らが負傷したことは当事者間に争いがない。また、〈証拠〉を総合すると、つぎの事実が認められる。すなわち、本件事故現場(正確には、吉田車と訴外車との衝突地点を指す。)は、ほぼ東西に直線にのびる見透しのよい幅員約8.2メートルのアスファルト舗装道路上で、速度制限が五〇キロに指定されているが、吉田車は、同日午前九時三〇分頃、本件事故現場の手前約一三三メートルの地点で、比較的緩速度で走行している訴外車(西山英一の運転する普通貨物自動車)を追越そうと考え、対向車線の安全確認のため同車線(本件道路北側車線)に進入し、前方約二〇〇メートルの地点に対向車(甲号事件の被害車)を認めたが、加速して追越してしまうべきか或いは自車線に戻るべきかどうかの判断に迷い、そのまま時速約四〇キロの速度で訴外車と並進を続け、本件事故現場手前約一九メートルの地点に達したとき、対向車が前方約七五メートルの所まで接近してきていて衝突の危険を感じ、もとに戻ろうと思つたが、訴外車との間隔がせまくて戻れないと判断し、完全に追越し切らない状況で、急拠左にハンドルを切り、訴外車の直前に割り込むような形で南側車線に入つたため、訴外車の前部右フェンダー付近に自車の後部左側バンバー付近を衝突させるに至つたこと、その際訴外車は、急ブレーキをかけ、衝突地点から約7.8メートル西進して停止したこと、他方、安車は吉田車が前叙のとおり訴外車を追越すため対向車線(北側車線)に進入した直後、時速四五キロ位に加速して二〇数メートルあつた訴外車との距離を徐々に短縮し、それが一一メートル位になつたとき、それまで訴外車と並進して対向車線を走行していた吉田車が、突然前叙のように南側車線に戻つたため、訴外車と衝突し、そこから西方約7.8メートルの地点に停止していた訴外車の制動灯が点灯しているのを認め、急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切つて訴外車を避けようとしたが、スリップして、車の前部が北側車線に進出した結果、前叙のように対向してきた甲号事件の原告竹浪の車の前部に自車の右前部を衝突させたことを認めることができ、右認定に牴触する証人吉田正彬の供述部分、とりわけ吉田車と訴外車との衝突事故が同日午前九時二〇分頃発生したのに対し、安車と竹浪車の衝突事故が発生したのは、同日午前九時五〇分頃であるとの部分は、前掲中A第一号証の一ないし三、乙第一ないし第三号証にてらして、にわかに採用し難く、他に右認定に反する証拠はない。

しかして、以上認定のとおり、吉田車と訴外車との衝突は、吉田車が訴外車の追越しをはかつて対向車線に進入したとき対向車との距離が二〇〇メートル位はあつたのであるから、吉田車が一気に加速して追越しを完了するなり、直ちに自車線に戻るなりの機敏な運転操作をなすべきであるのに、遅疑逡巡して一〇〇メートル余りも訴外車との並進を続け、対向車が近接するに至つてはじめて訴外車の直前に割り込むような形で自車線に戻つた追越し不適切の過失に基づくものであり、また、安車と竹浪車との衝突は、前叙のように吉田車が対向車線に進入した後は訴外車との距離を十分保つて進行すべきであるのに、それを怠つて車間距離を一一メートルまで縮め、しかも、時速約四五キロの速度で進行した過失に基づくものである。そして、本件事故は、吉田車の追越不適にその誘因があつたとはいえ、安車が適宜の車間距離をとつておれば未然に防止しえたことを考慮すると、両者の過失割合は、安車が6.5、吉田車が3.5であると認めるのが相当である。

二甲号事件について。

(一)  被告らの責任原因

本件事故は、安が大型貨物自動車で被告会社の業務である建築用資材の運搬中に発生したが、被告会社は、安が右の加害車を月賦で購入するにあたり自ら契約上の買主となり、また、同車の強制保険および任意保険の保険契約者となり、保険料の支払いもしていたこと、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を綜合すると、安は、昭和四三年四月頃から昭和四四年八月末頃までの間被告会社の下請人として、殊に、被告会社が立替払いをした加害車の月賦代金を完済するまでは被告会社以外の仕事は請負わない旨の誓約書をさし入れ、月一、二回の例外を除いては、専ら被告会社の指示どおりに山砂の運搬を行なつていたこと、そして、加害車は、被告会社の敷地内に常時駐車保管されていたこと、また、被告車が被告会社の唯一の経営者として事業全般を指揮監督し、加害者の運転者に対する被告会社の監督も、具体的には、被告崔によつてなされていたことは、当事者間に争いがない。

右認定の事実によれば、被告会社は、加害車の運行供用者として自賠法三条による責任を、また、被告崔は、被告会社に代つて安を具体的に指揮監督していた者として、民法七一五条二項による責任を免かれないものというべきである。

(二)  原告らの損害

1  原告竹浪について六〇七万八、五四〇円

〈証拠〉を総合すると、原告竹浪は、本件事故によつてその主張のような傷害を受け、横浜市の大船共済病院に昭和四四年八月二七日から昭和四五年一月一九日までと同年一〇月三一日から同年一二月二〇日までの合計一九七日間入院し、そのうち昭和四四年八月二七日から同年一〇月一〇日までの四五日間は医師の指示によつて付添看護人をつけ、また、昭和四五年一月二〇日から同年一〇月三〇日までと同年一二月二一日から昭和四六年一二月四日までの合計実日数五五日間病院に通院したこと、その後も自賠法施行令別表所定の障害等級七級に該当する外傷性てんかん、左眼に0.02以下の視力障害、軽度の眼瞼下垂などの後遺症に悩まされ、次のような損害を蒙つたことが認められる。

(イ) 治療関係費

一〇万七、四〇〇円

(A)付添費一三万五、〇〇〇円(一日三、〇〇〇円に前記日数を乗じた金額)、(B)入院室料差額一万三、三〇〇円、(C)入院経費五万九、一〇〇円(一日三〇〇円に前記入院日数を乗じた金額)

(ロ) 車輛損  七万円

被害車は、原告竹浪が訴外斉藤きみから借り受けていた中古車であつて、きみは、事故三ケ月前に同車を九万円で購入したのであるが、本件事故により同車が大破し、修理不能になつたため、同原告が右破損による損害金としてきみに対して支払つた金額

(ハ) 休業損害

一二四万六、〇三五円

原告竹浪は、当時父の経営する竹浪建設で自動車の運転者として月平均二五日間働らき、日額三、〇八四円の収入を得ていたが、前記傷害のため、昭和四四年八月二七日から少くとも昭和四五年一二月末日まで休業して喪失した得べかりし収入金額

(ニ) 逸失利益

四〇〇万〇、七〇五円

前記の傷害および後遺症の程度、症状固定時期同原告の職種などに鑑みると、同原告の後遺症による労働能力喪失率は五六パーセント、その存続期間は昭和四六年一月一日から一〇年間と認めるのが相当であり、右期間中の収入金額に喪失率を乗じた上、ライプニツツ方式によつて算出したその現価

(ホ) 慰藉料 一〇〇万円

前記傷害および後遺症の部位・程度、入通院期間などを考慮して認められる正当な金額

(ヘ) 損害の填補

原告竹浪は、本件事故による賠償として自賠責保険金、労災保険金の合計七四万五、六〇〇円を受領している(この点は、同原告の自陳するところである)。

(ト) 弁護士費用 三〇万円

原告竹浪が本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件弁論の全趣旨により明らかであり、証拠の蒐集、相手方の抗争の程度、認容金額等を考慮し、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる金額

2  原告岩谷きさについて

三七万六、七二七円

〈証拠〉を総合すると、原告岩谷きさは、本件事故においてその主張のような傷害を受け、前記大船共済病院に昭和四四年八月二七日から同年一〇月三一日までの六六日間入院し、そのうち二五日間は医師の指示によつて夫の清が付添看護にあたり、同年一一月一日から同年一二月二三日までと昭和四五年四月二〇日から同年一二月二日までの間合計実日数三五日間同病院に、昭和四四年一二月二六日から昭和四六年四月六日までの間合計実日数三三日青森県の鰺ケ沢町立病院に通院したこと、その後も頭部打撲後遺症、両側顎の関節痛などの後遺症に悩まされ、次のような損害を蒙つたことが認められる。

(イ) 積極的損害(治療関係費)

三万五、九六〇円

(A) 付添費二万五、〇〇〇円

夫の清は、前記期間中同原告と息子の原告岩谷和久両名の付添看護にあたつていたので、本件事故と相当因果関係に立つ同人に対する付添費用は、一日一、〇〇〇円が相当であり、これに前記付添日数を乗じた金額

(B) 通院交通費

一万〇、九六〇円

大船共済病院への往復バス代二〇〇円、鰺ケ沢町立病院への往復バス代一二〇円に前記各通院実日数を乗じた金額の合計額

(ロ) 休業損害

二六万三、〇八七円

原告岩谷きさは、当時竹浪建設で炊事婦として働らき、月平均四万二、七〇〇円の収入を得ており、同原告の職種、傷害の部位・程度、診療の経過等からみて、正当な休業期間は、昭和四四月年八月二七日から同年一二月末日までの四ケ月五日とその後の通院期間のうちの二ケ月間の合計六ケ月五日であると認めるのを相当とするので、右平均月収に休業月数(但し、昭和四四年八月分は日割計算による。)を乗じた金額。

(ハ) 慰藉料 四〇万円

前記受傷の後遺症の部位・程度、入通院期間を考慮して認められる正当な金額

(ニ) 損害の填補

三七万二、三二〇円

原告岩谷きさは、本件事故による賠償として自賠責保険金、労災保険金の合計三七万二、三二〇円を受領している(この点は、同原告の自陳するころである。

(ホ) 弁護士費用 五万円

原告岩谷きさが本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件弁論の全趣旨によつて明らかであり、事案の難易、認容金額等を考慮し、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる金額

3  原告岩谷和久について

三六万三、八二八円

〈証拠〉を総合すると、原告岩谷和久は、当時三歳の幼児で、本件事故によつてその主張のような傷害を受け、前記大船共済病院に昭和四四年八月二七日から同年一〇月三一日までの六六日間入院し、全期間前叙のように父清が付添看護にあたり、同年一一月一日から一一月一七日までの間実日数一三日同病院に通院し、次のような損害を蒙つたことが認められる。

(イ) 付添費 六万五、八二八円

父清が同原告と前叙のように原告岩谷きさ両名の看護にあたつていた当初の二五日間は一日八〇〇円、残余の四一日間は一日一、二〇〇円が相当であると認められるので、右各金員にそれぞれの日数を乗じた金額の合計額の範囲内である原告主張の表記金額

(ロ) 慰藉料 二五万円

前記傷害の部位・程度、入通院期間等を考慮して認められる正当な金額

(ハ) 弁護士費用

四万八、〇〇〇円

原告岩谷和久が本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件弁論の全趣旨によつて明らかであり、事案の難易、認容金額等を考慮し、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる金額

4  原告福士カセについて

二三万七、〇〇〇円

〈証拠〉を総合すると、原告福士カセは、本件事故によつてその主張のような傷害を受け、前記大船共済病院に昭和四四年八月二七日から同年一〇月一四日までの四九日間入院し、そのうち七日間は夫正夫の付添看護を受け、昭和四四年一〇月一五日から同年一〇月二七日までの間実日数一日間病院に通院し、次のような損害を蒙つたことが認められる。

(イ) 付添費 七、〇〇〇円

夫の正夫は、右付添期間中同原告と娘である原告福士淳子両名の付添看護にあたつていたので、本件事故と相当因果関係に立つ同人に対する付添費用は、一日一、〇〇〇円が相当であり、これらの金額に前記付添日数を乗じた額

(ロ) 慰藉料 二〇万円

前記傷害の部位・程度、入通院期間等を考慮して認められる正当な金額

(ハ) 弁護士費用 三万円

原告福士カセが本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件弁論の全趣旨によつて明らかであり、事案の難易、認容金額等を考慮し、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる金額

5  原告福士淳子について

一〇三万三、五〇〇円

〈証拠〉を総合すると、原告福士淳子は、当時五歳の女児であつて、本件事故によりその主張のような傷害を受け、前記大船共済病院に昭和四四年八月二七日から同年一二月五日までの一〇一日間入院し全期間にわたり前叙のように父正夫の付添看護を受け、同月の六日から二〇日までの間実日数一二日間病院に通院し、その後も左膝関節に屈曲一二〇度の運動制限ある後遺症に悩まされ、昭和四四年一二月二四日から昭和四五年一〇月三一日までの間実日数一九九日青森県五所川原市の川口接骨院に通院し、次のような損害を蒙つた。

(イ) 治療関係費

三三万三、五〇〇円

(A) 通院治療費

七万八、六〇〇円

(B) 入通院付添費

二五万四、九〇〇円

父正夫が前叙のように同原告と原告福士カセ両名の看護にあたつていた当初の七日間は一日八〇〇円、同人の看護を受けた残余の三八日間は一日一、二〇〇円が、昭和四四年一〇月一一日以降の五六日間は一日一、〇〇〇円が相当であり、これらの各金額に前記付添日数を乗じた合計額ならびに一往復二〇〇円の割合による大船共済病院への通院費や接骨院での通院実治療日数などを考慮して、本件事故と相当因果関係にあるものと認めるべき通院付添費(付添のために要した交通費を含む。)一四万七、七〇〇円

(ロ) 慰藉料 六〇万円

前記傷害および後遺症の部位・程度、入通院期間等を考慮して認められる正当な金額

(ハ) 弁護士費用 一〇万円

原告福士淳子が本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件弁論の全趣旨によつて明らかであり、事案の難易、認容金額等を考慮し、本件事故と相当因果関係にあるものと認められる金額

三乙号事件について。

(一)  被告らの責任原因

被告日東金属が同社の被用者吉田正彬の運転していた普通貨物自動車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは、当事者間に争いがないが、被告水野が被告日東金属に代つて右吉田を具体的に指揮監督していたことについては、これを認めるに足る証拠がないので、原告の被告水野に対する本訴請求は、理由がないものというべきである。

(二) 原告の求償金請求権

前段認定の諸事実によれば、原告は、被告日東金属とともに、共同不法行為者として、甲号事件の原告らに対し連帯して本件事故に基づく損害を賠償すべき義務があるところ、原告が甲号事件の原告竹浪に対して昭和四六年一一月六日右損害金として二〇万円を支払つたことは当事者に争いがないので、原告は、被告日東金属に対し前記過失割合に相応する同被告の負担金七万円の求償債権を有するものというべきである。

そこで、被告ら主張の抗争について判断するのに、本件訴訟に現われた全証拠をもつてしても、右の抗弁事実を認めるに至らず、かえつて、証人吉田正彬、同布施契雲の各証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一、第二号証と右各証人の証言を総合すると、吉田が昭和四四年八月三〇日安に対して貸し付けた一〇万円は、乙号事件の当事者とは全く無関係になされたものであることが認明らかであるので、被告らの右抗弁は、理由がない。

四よつて甲号事件原告らの本訴請求は、同号事件被告らに対して各自、原告竹浪が金六〇七万八、五四〇円、原告岩谷きさが金三七万六、七二七円、原告岩谷和久が金三六万三、八二八円、原告福士カセが金二三万七、〇〇〇円、原告福士淳子が金一〇三万三、五〇〇円および右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四五年一二月二七日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し右の限度を超える部分はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、また、乙号事件原告の本訴請求は、被告日東金属に対し金七万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年一二月二八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、同被告に対する右の限度を超える部分ならびに被告水野に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条(甲事件のみ)、仮執行の宣言につき同法第一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 佐々木一彦 鎌田義勝)

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